5/7 導火線

 

昔の話。私が中学に上がるか上がらないか...の頃のこと。

兄(きっちり15ヶ月差)は、片道1.5時間ローカル線の鈍行列車にゆられ、
大きな街の私学に通っていた。
中学高校一貫の男子校で、県内のさまざまな場所から、生まれ育った
環境の違う少年たちが出会う。

ちなみに私は中学まで地元の公立校だったので、校則(=拘束)により
その街へは『保護者(またはそれに順ずる大人)の同伴』無しでは
出かけられなかった。(*^^*)
そのせいか、その頃聞く兄の話はとても新鮮で、翼が生え自由気ままに
飛んでいるように思えた。


兄はとても穏やかで、私や妹(兄の8歳下)ともケンカをしたことは無い。
軽いイジワルでさえも、思い浮かばない。
冗談でまんまと騙されたことは何度もあるが。(^^ゞ

で。ウチは夕方、母が農業やパートで出かけていることが多く、家事分担の合間に
兄妹3人でTVを観たり、話をしたり、レコードを聴きピアノやギターを弾いたりして
過ごした。

ちなみに家事分担は、私が7人分の夕食作りや洗濯たたみ、兄は妹の面倒&
風呂焚き(薪で!)、妹は宿題を片付ける。


そんなある日、兄は云った。
『突然殴られたことある?』

私は訳がわからず...『へっ!?(・o・)』
その応えは予想の内だったらしく、続けざまに

『...無いよね。でも、もし殴られたらどうする?』

今日はどうもいつもと雲行きが違う。笑い話では無いらしい。
私なりに懸命に考えた返答は、『びっくりする』...だった。(^^;)

『だよね。その後、殴り返すと思う?』

...まただよ。考えたことも無い。(;^_^A
『分からない。多分、殴り返さない。(返せない)』っと、やっと答える私。

すると、兄は少しうつむき加減で話し始める。

『今日さぁ、学校でK君に云われたんだよね。
自分がもし傷つけられそうになったら本能的にやり返すはずだ」って。
それで僕も考えて、「そうかなぁ?やり返さない人もいると思うょ。」って。
そしたら、K君「そんなはずはない。じゃぁ今突然殴られたらどうする?
っていうから、やっぱり考えて
「ビックリはするけどやり返さないと思う」って答えたんだ。』

『うん』
...なぁんだ同意見だ、と思いながら相槌だけうつ私。
K君は当時の兄の仲の良いクラスメートで、それまでも何度も話題には
登場していた。

兄:『そしたらK君、突然ホントに殴ってきたんだよね。』

私:『え゛っ!(・o・) それでどうしたの?』

兄:『...でもやっぱり殴り返せなかったんだよね。
  それ見てK君、「そんなのウソっぱちだ!」っていって
  教室から出て行っちゃった。』

私:『...うん。... ... ... ...痛かった?』


K君とはその後、特にケンカしていた様子は無かった。(私の知る限り)

「世の中、わかっている事ばかり起こる」と言ったことさえある兄。
帰り道、1.5時間かけても解決(消化)しない、ワカラナイコトに出会った
瞬間だったのかもしれない。
結局結論めいたものは見えなくとも、お互いにとって
『友だちという他人(=自分では無い他者)』に遭えたことだけは確かだ。
マブシイ。...思春期の少年たち。

それまで双子感覚で兄と過ごしていた私も、いろんな世界があるんだなっと
擬似的ながら実感できた出来事だったような気がする。

時々思い出すこの会話、この場面。
今では想像の中で映像化された少年2人の様子。
なぜだか、いつか授業で習った『性善説×性悪説』もついでに思い出す。
人が争ったり、討論しているときには高い頻度で甦るエピソード。

ヒトには導火線があるのかもしれない。

私のは細く長く、滅多に使わない為に途中で切れたり湿ったりしており、
いざ!というときに限って役に立たないような気がする。
でも、突如として急に発火することもある。
そんな時は、長い導火線が絡みあって瞬時に暴発的に着火してしまうのか。

自分の痛みなら堪えられる。というより、驚きの感情の方が勝ちそうだ。
子ども時代、数は少ないが父に叩かれたり蹴飛ばされた時も、やり返そう
と思ったことは一度も無かったような気がする。

でも、大切な仲間や家族、子どもたちが殴られるのを目の当たりにしたら?
...この私でも手を出すかもしれない。

自分用と身内用、他人用3種類くらいあるのかもしれないな。

学園祭で1度くらいは会ったことがあったかな?K君。
彼はどんな環境で育って、今どんな大人になっているのだろう。


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