3/20 サクラ と 引っ越し

 

その後、桜は無事開花。
今年は急激に春が訪れ、2週間近く早く咲いたのだ。

私はどうしてもアパートの庭の桜を見納めたかったので、神様に『ありがとうございます』っと
お礼を言った。
ここで6回の桜を眺めることができた。
6年8ヶ月住んだ。これは私の居住暦のなかで2番目に長い記録。
『ここに住んだ』という心の区切りには、この桜が欠かせなかったのだ。

桜はソメイヨシノ。
どうやら世田谷区民(東京都民)は『桜』を愛でるのが好きらしく公園や並木といえば桜があり、
民家の庭先や路地にもフンワリほころんでいる。
他の季節はその存在を全く気づかないようなところに、立派な枝振りで誇らしげにそびえる大樹。
ワタアメのように儚げに可憐に、雲のように淡くのんびりと浮かぶピンク。
春を思い知らされる瞬間だ。

そんな中、私は髪を振り乱す勢いで荷造りをすすめた。
もう限界に近いガンバリを見せているのでヘトヘトだ。
体調も下降気味、いろんなところが痛い。(^^;)

『クスクスクス・・・』
どうも窓の上から桜に笑われているような気がする。

どうしてだろう?
花のひとつひとつが笑顔に見えてくる。
そのハズカシそうな様子がまた春らしい。

引っ越し屋さんが朝一でやってきた。
夫は通常の出勤。娘は友人宅(仲良しのお家)で預かってもらう手はずが整っている。
最後までご挨拶しそびれた表のお宅へ伺って3人揃ってお礼とお別れを云うと、
娘は夫に連れられハリキって出かけていった。

『よぉ〜っし、やるか!』
あとひとがんばり。

引っ越し屋さんはプロだ。
パソコン関係と書類がきっと他の家庭の3倍はあるであろうウチの荷物を
手際よく4人ががりで片付けてゆく。
昨晩、夫とため息つきながら箱詰めしたものをあっと云う間にトラックにお行儀良く収めてゆく。
『さっすが〜〜〜♪』惚れ惚れする。

『もう荷造りが間に合わないかも・・・』っと半分自信喪失していた私は、片手に雑巾、
片手に家庭用スプレー洗剤を握りしめ、必要なものを拭いてから最後のひと箱に詰めていく。

『クスクス...』
また桜が笑った。

ほとんど空っぽになり、カーテンも外し、『さ〜ぁ、ようやくおしまい!』という頃
ケイタイが鳴った。

『ピアノ配送車が転居先に到着しています!もう出られますか?』

『うぉ〜〜〜!!!』引っ越し屋さんと桜に笑われながら、私はいつもの自転車に乗り、
アパートを後にした。

タクサンノ 笑顔ヲ アリガトウ 『サクラ』。

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